つかみが重要な理由:3つの前提を考える
つかみの目的は、話を聞いてもらうことと話を信じてもらうことにあります。この2つをうまく達成すると「行動を起こしてもらう」に近づくことができます。
講師が考え、そして覆すべき3つの前提
- 人は話を聞かない(Not listen)
- 人は話を信じない(Not believe)
- 人は行動を起こさない(Not act)
授業に対して積極的に参加をしてくれる方ばかりなら良いのですが、なかなかそうもいきません。仕方なく参加する人もいれば、目的もなく参加して客観的に眺めている方もいらっしゃいます。
最悪の場合、その教室全体の空気を壊してしまうこともあるため、このような人たちをいかに講座に引き込み、味方にするかがとても重要になります。
ちなみに、先ほど紹介した3つの前提は広告の三原則をいじったものです。こうしたものも、つかみとして活用することができます。
- 読まない(Not read)
- 信じない(Not believe)
- 起こさない(Not act)
つかみが有効な理由:人には2つの思考がある
人には、速い思考(システム1)と遅い思考(システム2)があります。
- システム1:直観的、自動的、連想的、感情的、無意識的
- システム2:分析的、思考的、規則的、論理的、意識的
システム1とシステム2
以下の画像をご覧ください。
同じセリフであっても、左右の方から受ける印象は大きく違うと思います。これは論理的な判断ではなく、直観的なものです。この直観的な思考(システム1)を経て、意識的に頭で認識(システム2)します。
一方、「47×63=?」という問いに対しては直観で答えを出すことができません。こちらは自分で意識をしながら答えを導き出すことになります。これがシステム2の思考です。
システム1によってシステム2が変化する
重要なのは、システム1(感情)の状態によって、システム2(論理的判断や行動)が変化するということです。では、次の例をご覧ください。
「おひとり様12個まで」という注意書きによって「みんな、そんなに買っているんだ」という印象を与えることができます。この「印象」というのは、まさにシステム1(自動的・連想的な発想)です。そして、そのシステム1により購入という行動が変わりました。ちなみに、システム1は自動的かつ無意識的な発想ですので、消費者側には「そう思わされた」という自覚はありません。
では、もう1つ事例を見ていきましょう。
「フレッシュライフ」という名前よりも「通勤快足」というネーミングの方が、その商品の詳細にイメージできますよね。私は、「革靴の中がムレムレする時期でもすっきり快適」というイメージが湧きました。こうして、その商品の目的(印象・イメージ)が明確になるからこそ、ビジネスマンがこぞって購入したわけです。
そもそも「フレッシュライフ」も「通勤快足」も、名前が違う以外は同じ商品です。そのため、消費者がシステム2(論理)で考えれば売上は変わらないはずです。でも、「フレッシュライフ」と「通勤快足」という名前には、システム1(感情)への刺激に差があります。その結果として、消費者の購買行動が変化したわけです。
以上のように、人はシステム1がどのような状態であるかによって、行動が変化することが分かります。たとえば、嫌いな人が正しいことを言っても、その意見を受け入れられないのと同じです。これも感情が先行して行動に影響を与えている例の1つです。
そして、私が教えている「つかみ」はシステム1に刺激を与えるものです。最初に感情を動かすからこそ、その後の言葉をしっかりと聞いてもらい、信じてもらい、行動に移してもらうことができるわけです。
おすすめの本
システム1とシステム2の違いについて詳しく書かれているのがファスト&スローです。その名のとおり、「速い思考」と「遅い思考」について書かれた本です。理論はもちろんのこと、様々な事例(データ)がしっかりと書かれているので、つかみネタも豊富です。
もし、つかみネタ集めを目的に買うならアリエリー教授の「行動経済学」入門もおすすめです。この本の帯に書かている「人は不合理だから面白い」の言葉どおり、システム1によって行動を変えてしまう事例がたくさん紹介されています。ファスト&スローに比べるとノリが軽くて読みやすいです。